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ガイドライン関連の最新情報

大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版の「切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき臨床試験の結果について(2020年9月)

このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版の「切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法」に追記すべき臨床試験の結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。

エヌトレクチニブに関する臨床的エビデンス

論文名 Entrectinib in patients with advanced/metastatic NTRK fusion-positive solid tumours: integrated analysis of three phase 1/2 trials
掲載雑誌名 Lancet Oncol. 2020; 21(2): 271-282
著者名 Doebele R, Drilon A, Paz-Ares L, et al.
試験のスポンサー名 Ignyta Inc./F. Hoffmann-La Roche Ltd
試験デザイン・本論文における結果の要約
試験デザイン

本解析の対象は、進行中の3つの国際共同第I/II相臨床試験(ALKA-372-001試験、STARTRK-1試験、STARTRK-2試験)の主要なデータセットで構成され、これらのデータセットには、600 mg/日以上でエヌトレクチニブを経口投与された NTRK融合遺伝子陽性の局所進行または遠隔転移を有する固形癌患者(18歳以上)が組み入れられた。なお、全患者がECOG PS 2以下で、前治療歴を有する患者の登録も許容された(TRK阻害薬治療歴は除く)。有効性評価可能な集団及び安全性評価可能な集団を対象に解析が行われた。主要評価項目である客観的奏効割合(ORR)および奏効期間(DoR)は、RECIST v1.1基準を用いて独立中央判定により評価された。

結果の要約

本解析のデータカットオフ日において、有効性評価可能集団は、19の異なる組織型からなるNTRK融合遺伝子陽性の局所進行または遠隔転移を有する固形癌の54名であった。主要評価項目であるORRは57%(95%信頼区間43.2–70.8)、DoR中央値は10カ月(95%信頼区間7.1–NE)であった。安全性解析集団(n=355。このうちNTRK融合遺伝子陽性の患者は68名)において、治療関連有害事象(TRAE)のほとんどはグレード1/2かつ可逆性であり、TRAEによりエヌトレクチニブの投与を中止した患者の割合は4.0%であった。発現率の高いグレード3/4のTRAEは、体重増加(n=18、5%; n=7、10%)および貧血(n=16、5%; n=8、12%)であった。発現率の高い重篤なTRAEは神経系障害(n=7、10%)であった。治療関連死はみられなかった。

本論文における結語

エヌトレクチニブは、NTRK融合遺伝子陽性の固形癌患者において、ベースライン時に中枢神経系(CNS)浸潤の有無にかかわらず、持続的で臨床的意義のある奏効が認められた。また有害事象は管理可能であり、十分に忍容可能であった。これらの結果から、エヌトレクチニブは、NTRK融合遺伝子陽性の固形癌患者に対する有効な治療法であると考えられる。


上記の臨床試験結果に基づき、本邦において2019年6月18日に、「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」を効能・効果としてエヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)が薬事承認された。また、同年6月26日に、「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」に、エヌトレクチニブのコンパニオン診断としての使用目的が追加された。

ガイドライン委員会のコメント

上記の解析には、NTRK融合遺伝子陽性の大腸癌患者が4例含まれており、うち1例で奏効が得られている。エヌトレクチニブは忍容性が高く、NTRK融合遺伝子陽性の大腸癌の有力な治療選択肢となり得る。
大腸癌におけるNTRK融合遺伝子陽性の頻度は1%未満であり、NTRK融合遺伝子はエヌトレクチニブのコンパニオン診断システムとして承認されている「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」を用いて検出する。また、「OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム」を用いて包括的ゲノムプロファイリング検査を行いNTRK融合遺伝子が検出された場合も、検査後のエキスパートパネルによりエヌトレクチニブの投与が適切であると判断された場合には、あらためてコンパニオン検査を行うことなくエヌトレクチニブの投与が可能である(令和元年6月4日疑義解釈資料)。なお、詳細については、成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン第2版(日本癌治療学会/日本臨床腫瘍学会 編 日本小児血液・がん学会 協力 2019年10月)も参照のこと。
以上より、NTRK融合遺伝子陽性の大腸癌患者に対する治療選択肢として、二次治療以降の最適な治療ラインでエヌトレクチニブ療法が位置づけられる。

これまで本ガイドラインに収載するレジメンに関しては、①第Ⅲ相試験で有効性・安全性が検証されたレジメン、②第Ⅲ相試験で有効性・安全性が検証されたレジメンであれば、当該治療ライン以降の治療ラインでも推奨する、③同系統の薬剤を用いたレジメンにおける有効性・安全性が第Ⅲ相試験で検証されていれば、第Ⅱ相試験などで有効性・安全性が確認されていることを条件に推奨する、ただし殺細胞性抗がん薬の併用の場合はそのレジメンの当該治療ラインにおける有効性・安全性が第Ⅲ相試験で検証されていることが必要(大腸がん治療ガイドライン2016年度版 はじめに)と規定されていた。
しかし、近年薬剤承認の考え方が変化してきている。MSI-Hにおけるペンブロリズマブの様に少数の対象患者が特定の遺伝子変異などのバイオマーカーで規定される場合は、がん種を横断に適格性を規定した(tumor agonistic)開発が行われ、規定されたバイオマーカーを有する全てのがん種でがん種横断的に承認が行われるようになった。
 エヌトレクチニブはNTRK融合遺伝子を有する固形癌に対してバスケット試験において高い有効性が認められたことから、がん種横断的に薬事承認された。大腸癌においては、NTRK融合遺伝子を有する患者は非常に希少であるが、大腸癌治療の均てん化の観点から、承認要件の理解を促進し、適切な患者を包括的ゲノムプロファイリング検査にアクセスすることを期して掲載すべきと判断した。

引用文献

Doebele R, Drilon A, Paz-Ares L, et al. Entrectinib in patients with advanced/metastatic NTRK fusion-positive solid tumours: integrated analysis of three phase 1/2 trials. Lancet Oncol. 2020; 21(2): 271-282.

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