3 大腸癌治療ガイドラインの解説
1)治療の原則
治療の原則は癌を残すことなく,きれいに取り除くことです。
・癌を根絶やしにする手術を根治手術と呼びます。
大腸癌の治療には内視鏡による切除から,手術治療,化学療法,放射線療法などのさまざまな方法があります。
大腸癌と診断されたら,ステージを知る必要があります。ステージにしたがって標準的な治療が選ばれます。
癌が粘膜だけにとどまっている場合や粘膜下層に少し浸潤している場合は,リンパ節転移はありません。
・癌の部分だけを切除することで,癌は治ります。
癌が粘膜下層の深いところや,固有筋層に深く侵入すると,リンパ節への転移が見られるようになります。
・そこで,粘膜下層よりに深く入り込んだ癌では原発巣だけではなく,念のためリンパ節を予防的に取り除きます(リンパ節郭清)。
根治手術の後に,取り出したリンパ節に癌細胞があるかどうかを顕微鏡で調べます。
・リンパ節の中に癌細胞が発見されると,その癌は性質が悪いと診断します。
・性質の悪い癌はせっかく手術で原発巣やリンパ節を完全に取り除いたとしても,後に肝臓や肺,腹膜,さらには取り除いた原発巣の傍に再び癌が現れることがあります。これを癌の再発と呼びます。
・再発の可能性が高いと判断された場合,予防的に抗がん剤など追加の治療が奨められます。
2)ステージ 0 の大腸癌の治療
癌が粘膜にだけあるステージ 0 ならば,まず内視鏡で癌を取り除きます。
大きさが 2 cm を超えていたり,場所によって内視鏡治療が技術的に困難なことがあります。
・この場合は手術で治療します。
内視鏡で切り取った癌を顕微鏡で調べて,癌が粘膜下層に深く入り込んでいると,リンパ節転移が約 11%に起こります。
・さまざまな条件を考えて,追加治療として,リンパ節郭清をともなう手術を行うかどうかを検討します。
3)ステージI,ステージII,ステージIIIの大腸癌の治療
癌が筋層からさらに深く入り込んでいるとあらかじめ診断されると,手術治療が行われます。
癌をもった腸の切除だけでなく,リンパ節郭清も行います。
ステージに応じてリンパ節をとる範囲が変わります。
・早期癌と診断しても,実際は進んでいることもあるので,大きめにリンパ節郭清をするのが一般的です。
・手術前にリンパ節に転移があるか無いかを調べる検査の精度が十分でないため,癌の深さを指標としています。
切り取ったリンパ節に癌の転移が証明されると,ステージIIIとして再発予防のため化学療法が奨められます。
4)ステージIVの大腸癌の治療
癌がすでに大腸から遠く離れた場所に転移している場合をステージIVといいます。大腸癌と転移した癌の両方とも安全に取りきれるならば,両方とも手術で切り取ります。
転移巣は取りきれないけれど,大腸癌が原因で出血,穿孔,腸閉塞などの危険性があれば,大腸癌のみを取り除く手術をします。そして残った転移巣には化学療法や放射線療法を行います。
大腸癌と転移巣の両方とも手術で取りきれない場合や,手術には耐えられないほど患者さんの身体が弱っているときは,手術ではなく化学療法や放射線療法を選びます。
このような患者さんでは化学療法にも耐えられないこともあり,その場合はいろいろな方法で症状を和らげることが優先されます(緩和治療)。
5)血行性転移の治療
大腸癌の血行性転移には,肝転移,肺転移,脳転移,その他(骨,副腎,皮膚,脾)などがあります。
血行性転移であっても,肝転移や肺転移では,すべてを切除することにより治ることがあります。
●肝転移の治療
肝転移の治療には,手術治療,化学療法,熱凝固療法があります。
手術治療(肝切除術)
・転移した部分がすべて切り取れる,手術後生活するだけの肝臓が残る,手術に耐えられる,場合には手術が行われます。
・肝切除では 20~40%が治ります。
肝動注療法
・肝臓を栄養している動脈に管(カテーテル)を入れ,そこから肝臓だけに抗がん剤を注入する方法です。
・転移が肝臓にだけある場合で,手術では取り切れない時に行います。
・転移巣への直接効果が期待できます。
熱凝固療法
・転移巣に針を刺し,熱を発生させて癌を殺す方法です。
・マイクロ波凝固壊死法(MCT:microwave coagulation therapy)とラジオ波組織熱凝固療法(RFA:radio-frequency ablation)があります。
・転移が肝臓にだけある場合で,手術では取り切れない時に行います。
全身化学療法
・肝転移が手術で取り切れない場合や,肝臓以外にも転移がある場合に行われます。
・肝臓にだけ転移がある場合でも,その他の転移が隠れていることが多いため,この治療が行われます。
●肺転移の治療
肺転移の治療には,手術治療と化学療法があります。
手術治療(肺切除術)
・転移した部分がすべて切り取れる,手術後生活するだけの肺が残る,手術に耐えられる,場合には手術が行われます。
・肺切除では 30~60%が治ります。
全身化学療法
・肺転移が手術で取り切れない場合や,肺以外にも転移がある場合に行われます。
●脳転移の治療
脳転移の治療には,手術療法と放射線療法があります。
手術治療は,切除により重大な神経障害が残らない場合に行われます。
放射線照射には,定位放射線照射,局所照射,全脳照射があります。
6)再発した大腸癌の治療
再発した大腸癌が肝臓や肺などの一つの臓器であり,また,手術で取り切れるようであれば,手術治療が推奨されます。
転移が二つの臓器であっても,手術治療をすることがあります。
・血行性転移の治療を参照してください。
再発により腸閉塞になっている場合,バイパス手術や人工肛門にて食事ができるようになる場合は,そのような手術をする場合があります。
局所再発の治療
・直腸癌では約 10%に局所再発(手術した場所の近くの再発)が起こります。
・吻合部再発(吻合した場所での再発)では手術治療でかなり治ります。
・骨盤内に再発した場合,膀胱や子宮・膣を合併切除して,治る場合があります。
・手術で取り切れない場合は,放射線治療が行われます。
7)化学療法
●化学療法の内容
大腸癌に使われる抗がん剤にはさまざまなものがありますが,いくつかの抗がん剤を組み合わせて使うのが一般的です。
大腸癌の化学療法の中心は 5-FU(ファイブ・エフ・ユー)(注射薬)です。
5-FU を内服薬にした薬もあります。
・UFT(ユー・エフ・ティー),フルツロン,TS-1(ティー・エス・ワン),ミフロールなど。
通常,5-FU の増強剤であるロイコボリンを 5-FU と併用して使います。
5-FU の投与方法には,急速注射,点滴による長時間投与(持続静脈投与),内服があります。
新しい抗がん剤として,イリノテカン(CPT-11:シー・ピー・ティー・イレブン)とオキサリプラチンがあり,5-FU とロイコボリンに追加して使用します。
●補助化学療法
手術にて癌をすべて切除しても,約 17%に再発します。
再発を抑える目的で補助化学療法が行われます。
・ステージIIIの結腸癌またはステージIIの結腸癌で再発の可能性が高い癌に行います。
・5-FU とロイコボリンを 6 カ月間注射する方法が一般的です。
・内服薬である UFT とロイコボリン錠の予防効果が注射療法と同等であることが米国で示されています。
・わが国の研究では,ステージIIIの直腸癌において UFT の 1 年間の服用が再発予防効果のあることが示されました。
●切除不能転移・再発大腸癌に対する化学療法
手術で癌をすべて取り切れない場合,次のような条件の人には化学療法による治療を考えます。
・少なくとも,歩行可能で自分の身の回りのことを行える。
・肝臓や腎臓の機能がしっかりしている。
・転移・再発が X 線検査や CT,MRI などで映し出せる。
化学療法で大腸癌を治すことはできませんが,生存期間を延長させることが明らかにされています。
国内で使用可能な方法で,生存期間が延長することが証明されている方法には以下のものがあります。
・持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン
・持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン+イリノテカン
・注射(短時間静脈投与)による 5-FU+ロイコボリン+イリノテカン
・注射または持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン
・内服での UFT+ロイコボリン錠
転移が肝臓に限局している場合,肝動脈に 5-FU を注入する方法もあります(肝動注療法)。
●化学療法の継続
癌病巣が明らかに大きくなっていない,また,強い副作用がない場合には,同じ化学療法を継続します。
副作用が強いときには,治療をいったん休むことが必要となります。
癌が明らかに大きくなった場合は別の化学療法に切り替えます。
8)放射線療法
●補助放射線療法
直腸癌治療において,骨盤内の再発予防や人工肛門回避を目的として行います。
欧米では標準的な治療ですが,国内では積極的には行われていません。
・その理由:手術成績が欧米よりも良好である。
治療困難な副作用が起こることがある。
放射線設備や放射線専門家が少ない。
照射時期には,手術前照射,手術中照射,手術後照射の 3 種類があります。
・手術前照射が一般的です。
抗がん剤と併用して行うこともあります。
●緩和的放射線療法
癌による症状を和らげる目的で行います。
骨盤内病巣,骨転移,脳転移,リンパ節転移などに照射します。
痛み,出血,神経症状などでは約 80%で症状が改善します。
9)大腸癌術後のサーベイランス
●サーベイランスとは
大腸癌を手術ですべて取り切っても,約 17%に再発します。
再発を早い時期に発見すれば,再度の手術で治ることもあります。
そのため,手術後一定の期間,一定のスケジュールにしたがって再発の有無を検査します。
●再発が起こりやすい期間と部位
再発の約 80%は手術後 3 年以内に,95%以上は 5 年以内に見つかります。
再発の多い部位は,肝臓,肺,局所(癌があった場所の周辺),吻合部(癌を切除して腸をつなぎ合わせた部分)です。
●ステージ別の再発
ステージ 0
・癌を切除した部分の切れ端に癌細胞がなければ再発しません。
ステージ I
・粘膜下層までの癌の再発率は約 1%です。
・筋層へ浸潤した癌の再発率は 6.4%です。
ステージ II,ステージ III
・進行度が進むにしたがって再発率が増加します。
・ステージ II の再発率は約 13%,ステージ III では約 30%です。
●サーベイランスの方法
ステージ 0 やステージ I の粘膜下層までの癌にはサーベイランスはほとんど必要ありません。
ステージ I の筋層へ浸潤した癌,ステージ II,ステージ III では,3 年間は 3 カ月~4 カ月に 1 度の検査,4 年目から 5 年までは 6 カ月に 1 度の検査を行うことが一般的です。
検査する部位は,肝臓と肺が主で,直腸癌の場合骨盤内も検査します。
検査には,問診・診察,腫瘍マーカー(CEA,CA 19-9)測定,胸部 X 線検査,CT,腹部超音波検査,MRI があります。
PET,PET・CT を用いる場合もあります。
吻合部の再発の検査には,大腸内視鏡検査または注腸造影検査を行います。
大腸癌にかかった人は,その他の癌にもかかりやすくなっています。大腸癌のサーベイランスは,大腸癌の再発の検索を目的としたものですので,他の癌の検査を行っていません。大腸癌術後のサーベイランスを受けていても,通常の癌検診は受けてください。
10)緩和医療
再発により腸閉塞になった場合,閉塞した場所を迂回する手術を行う場合があります(バイパス手術,人工肛門造設)。
癌による痛みには,積極的に鎮痛剤を用い,神経ブロック,放射線照射なども行います。
精神的なケアによる QOL の改善も積極的に行われます。