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第31回

胃と腸の腺腫―同質性と異質性―

西村 聡(公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院消化器センター内科)ほか

監修コメント

 腸腺腫と類似病変は管状腺腫,管状絨毛腺腫,絨毛腺腫(類語ではあるが臨床像が異なる絨毛腫瘍という呼称もある。用語としての同質性と異質性を理解する必要がある)に病理組織像として分類される。まず特殊型として,鋸歯状病変がある。鋸歯状病変は,腫瘍に分類されている,好酸性の細胞質と異型を有するtraditional serrated adenoma(TSA)と異型がないことから腫瘍類似病変に分類されるsessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)がある。さらに,SSA/Pには,異型がない鋸歯状だけからなる病変注1)と,SSA/Pから発生する腺腫あるいは鋸歯状異型注2)が混在する病変とがある。後者はmixed type あるいはSSA/P with cytological dysplasia(次回掲載予定)と呼称される。
 胃癌関連病変でも注目されている病変がある。それは胃型腺腫の特殊型である。『胃癌取扱い規約 第14版(2010)』33頁には「腺腫(Adenoma):境界明瞭な良性上皮性病変で,管状構造が主体の上皮内非浸潤性腫瘍である。多くが小腸型の細胞形質を示す管状腺腫(腸型,Tubular adenoma, intestinal type)であるが,稀に胃型腺腫が存在する」と記載されている。WHOでは腸型形質として,MUC2/CD10陽性,MUC5AC/MUC6陰性とある。その一方で,管状腺腫(胃型,Tubular adenoma, gastric type)については,「幽門腺型腺腫(pyloric gland adenoma)とも呼ばれ胃上部の結節状隆起で,幽門腺あるいは頸部粘液細胞への分化を示す」と記載されている。
 歴史的には腸型腺腫は腸型異型上皮(ATP, ATE), Ⅱa-subtype(福地・望月),中村Ⅲ型,扁平腺腫(喜納)といった呼称もある。大腸型腺腫は中村Ⅳ型,異型上皮Ⅱ型と分類された時もあるが,現在は分化型もしくは極分化腺癌と考えられている。今回,腸腺腫と比較してとりあげる,いわゆる胃底腺型腫瘍(腺腫/癌)はorganoid patternを保ちながら粘膜下組織にheterotopicに増生する。これらの病変は胃底腺領域内の腫瘍類似病変として問題にされていたが,その成り立ちについて結論には達していなかった1)。吉井は,著書「胃の病理(1973年)」のなかで胃を構成する上皮群にそれぞれ前癌病変が存在するとの仮説を示したがこれらに関連した癌の特徴に関する記載はない。服部,九嶋らは腺窩上皮型,幽門腺型,混合型に分類し,腸型腺腫と比較して胃型腺腫の癌併存率は高く24-30%としている。2010年代になって,低異型度腺癌として,主細胞優位の胃底腺への分化を示す新しい癌型があることが,八尾らのグループから提案された。この癌はH.pyloriと無関係な癌として位置づけられ,萎縮,腸上皮化生のない胃底腺から発生する。
 大腸ではSSA/P,胃では胃底腺型腫瘍が,従来のdysplasiaの組織とは異なる異型の弱い腫瘍もしくは腫瘍類似病変として,高齢者の前癌病変として消化管領域で注目されている。このような背景から大腸疾患アトラスに「腸腺腫と胃腺腫,およびその関連病変」を追加した。
注1:過形成ポリープとされてきたSSA/Pの組織像の特徴は従来の細胞異型(CAT)と構造異型(SAT)から形態的に腫瘍を診断するadenoma/dysplasiaの形態診断と異なる点である(none dysplasia but have an extended proliferative zone:Riddell RH)
注2:好酸性の細胞質がある場合(TSA)と無い場合(typical serrated adenoma/dysplasia:Riddell RH)がある
1)望月孝規.胃隆起性病変の病理と問題点.胃と腸 1982;17:379-82.

(監修コメント=社会医療法人神鋼記念会神鋼記念病院病理診断センター長/福島県立医科大学特任教授 藤盛孝博)

症例1 胃底腺型腫瘍(腺腫)

70歳代男性。早期胃癌endoscopic submucosal dissection(ESD)後の経過観察の上部消化管内視鏡検査にて胃体中部小弯後壁に境界明瞭な白色調の4mm大の0-Ⅱa病変を認めた。NBI拡大観察では表面構造は不明瞭化しているが,networkを形成した異型血管を認め,早期胃癌(分化型,粘膜内癌)の診断にてESDを施行した。病理組織診断は層構造が乱れた胃底腺細胞の増生を認めた。細胞異型・構造異型は認めず,免疫染色ではp53は陰性でKi-67は低値であった。また,H/K ATPaseが強陽性,MUC5AC,MUC6が弱陽性,PepsinogenⅠ,MUC2,CD10が陰性であった。上記より胃底腺型腫瘍(腺腫)と診断した。水平断端・垂直断端はいずれも陰性であった。

白色光観察(左),インジゴ撒布観察(中央)。胃体中部小弯後壁に境界明瞭な白色調の4mm大の0-Ⅱa病変を認める。
NBI拡大観察(水浸)(右)。表面構造は不明瞭化しているが,networkを形成した異型血管を認める。

弱拡大像(左)。壁細胞が増生し,胃底腺の層構造の極性の乱れを認める。
強拡大像(中央)。壁細胞の増生を認めるが細胞異型や構造異型には乏しい。
免疫染色像(右)。H/K ATPaseが強陽性,MUC5AC,MUC6が弱陽性,PepsinogenⅠ,MUC2,CD10が陰性であった。

症例2 胃型腺腫

70歳代女性。近医にて胃腺腫の診断で経過観察されていたが増大傾向があり紹介受診となった。精査の上部消化管内視鏡検査にて穹隆部から噴門部にかけて白色調の150mm大の0-Ⅱa病変を認めた。巨大な病変だが隆起内陥凹や緊満感,硬さといったSM浸潤を疑う所見は認めなかった。NBI拡大観察では血管構造は不明瞭化していたが,表面構造は大小不同のあるvilli様構造を認め,高分化型腺癌,粘膜内癌の診断にてESDを施行した。病理組織診断では,MUC5AC陽性部分とMUC6陽性部分が混在した胃型形質を示す腺腫であった。水平断端・垂直断端はいずれも陰性であった。

白色光遠景観察(左)。穹隆部から噴門部にかけて白色調の150mm大の0-Ⅱa病変を認める。
酢酸撒布観察(中央)。酢酸撒布により病変の境界はより明瞭化する。
NBI拡大観察(右)。血管構造は不明瞭化している。表面構造は大小不同のあるvilli様構造を認める。

ESD切除検体マクロ像(左)。白色調の150mm大の0-Ⅱa病変を認める。
弱拡大像(中央)。粘膜固有層に構造異型の弱い腫瘍の増生を認める。
免疫染色像(右)。MUC5ACおよびMUC6は陽性で,MUC2およびCD10,H/K ATPase,PepsinogenⅠは陰性であり,胃型形質を有する腺腫と考えられた。

症例3 Sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)

70歳男性。血便の精査の下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に粘液の付着した同色調の22mm大の0-Ⅱa病変(laterally spreading tumor non-granular type[LST-NG],flat-elevated type)を認めた。クリスタルバイオレット染色を用いた拡大観察では開Ⅱ型pitを認め,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)の診断にてESDを施行した。病理組織診断はSSA/Pであり,水平断端・垂直断端はいずれも陰性であった。

白色光観察(左)。上行結腸に粘液の付着した同色調の22mm大の0-Ⅱa病変(LST-NG,flat-elevated type)を認める。
クリスタルバイオレット撒布通常観察(中央),拡大観察(右)。開Ⅱ型pitを認める。

ESD切除検体マクロ像(左)。22mm大の同色調の0-Ⅱa病変を認める。
弱拡大像(中央)・中拡大像(右)。拡張した陰窩や陰窩の不規則な分岐像の増加,陰窩底部の不規則な拡張や走行を認める。

症例4 Traditional serrated adenoma(TSA)

70歳代男性。スクリーニングの下部消化管内視鏡検査にて直腸RSに同色調の6mm大のⅠs polypを認めた。表面構造は松毬様でありtraditional serrated adenoma(TSA)の診断にてendoscopic mucosal resection(EMR)を施行した。病理組織診断はTSAであり,水平断端・垂直断端はいずれも陰性であった。

白色光遠景観察(左),中景観察(中央)。直腸RSに同色調の6mm大のⅠs polypを認める。
近景観察(右)。松毬様の表面構造を認める。

弱拡大像(左)。好酸性細胞質を有する腫瘍細胞が乳頭状に増殖している。また鋸歯状の腺腔を示す。
中拡大像(中央)。腫瘍腺管からの芽出像(tumor budding)を認める。
強拡大像(右)。核異型は軽度である。

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