ガイドライン関連の最新情報

大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべきエビデンス~KRAS G12C遺伝子変異陽性の治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌に対するソトラシブ+パニツムマブ療法(2025年9月)

このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき薬剤が承認されましたので、その臨床試験の結果に基づき、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。

前治療歴を有するKRAS G12C遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発大腸癌に対するソトラシブ+パニツムマブ療法の国際共同第Ⅲ相試験(CodeBreaK 300試験)

論文名 Sotorasib plus Panitumumab in Refractory Colorectal Cancer with Mutated KRAS G12C.
掲載雑誌名 N Engl J Med 2023; 389(23): 2125–2139
著者名 Fakih MG, et al.
試験のスポンサー名 Amgen
試験デザイン・本論文における結果の要約
試験デザイン

CodeBreaK300試験は、前治療歴を有するKRAS G12C遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象として、標準治療(FTD/TPIまたはレゴラフェニブ)に対するソトラシブ(960mg/dayまたは240mg/day)+パニツムマブ療法の優越性を検証することを目的とした国際共同第Ⅲ相、無作為化、非盲検実薬対照試験であり、北米、欧州、アジアを含む12カ国で実施された1KRAS G12C阻害薬未治療で、中央検査によりKRAS G12C遺伝子変異が確認された症例が対象とされた。主な適格基準は、18歳以上、ECOG PS 0~2、フッ化ピリミジン・オキサリプラチン・イリノテカンを含む標準治療歴があり、次治療としてFTD/TPIまたはレゴラフェニブが妥当と考えられる患者であった。層別化因子は血管新生阻害療法の使用歴(あり/なし)、切除不能進行・再発と診断されてから無作為化までの期間(18カ月以上/18カ月未満)、およびECOG PS(0または1/2)であった。主要評価項目は独立中央評価による無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は、全生存期間(OS)、独立中央評価による奏効割合(ORR)、病勢制御割合(DCR)、安全性、QoLなどであった。

結果の要約

2022年4月から2023年3月までの間に、160例(日本人25例含む)が高用量ソトラシブ(960mg/day)+パニツムマブ群、低用量ソトラシブ(240mg/day)+パニツムマブ群、標準治療群に1:1:1で割り付けられた(高用量ソトラシブ群53例、低用量ソトラシブ群53例、標準治療群54例)。主要評価項目である独立中央評価によるPFSの中央値は、高用量ソトラシブ群5.6カ月、低用量ソトラシブ群3.9カ月、標準治療群2.0カ月であり、高用量ソトラシブ群の標準治療群に対する優越性が示された(ハザード比(HR)0.48、95%信頼区間(CI)0.30-0.78、p=0.005)。独立中央判定によるORRは各々26.4%、5.7%、0%であった。OSについては、データカットオフ時点ではイベント数が限られていた。有害事象は各々94.3%、96.2%、82.4%に認められた。Grade 3以上の有害事象の頻度は、高用量群35.8%、低用量群30.2%、標準治療群43.1%であった。高用量群において認められたGrade 3以上の有害事象は頻度の高い順に、ざ瘡様皮疹(11.3%)、皮疹(5.7%)、低マグネシウム血症(5.7%)、皮膚障害(3.8%)、下痢(3.8%)、貧血(1.9%)、嘔気(1.9%)、低カルシウム血症(1.9%)であった。

本論文における結語

高用量ソトラシブ(960mg/day)+パニツムマブ併用療法は、前治療歴を有するKRAS G12C遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発大腸癌患者において、標準治療と比較して統計学的に有意かつ臨床的意義のあるPFS延長効果を示した。


CodeBreaK300試験の結果を主として、ソトラシブ(商品名:ルマケラス)は、本邦において2025年8月に、パニツムマブとの併用で「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能・効果として承認された。なお、効能・効果に関連する注意として下記が記載されている。

  • フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤、オキサリプラチン及びイリノテカン塩酸塩水和物による治療歴がない患者における本剤の有効性及び安全性は確立していない。
ガイドライン委員会のコメント

KRAS G12C遺伝子変異陽性の大腸癌は全大腸癌の約3%と希少である。ソトラシブは、KRAS G12C変異タンパク質を選択的かつ不可逆的に阻害するが、大腸癌においては単剤投与ではEGFR経路の再活性化により耐性が生じる。抗EGFR抗体薬であるパニツムマブはこの再活性化を抑制し、両剤の併用により抗腫瘍効果が増強される。

ソトラシブ(960mg/day)+パニツムマブは、前治療歴を有するKRAS G12C遺伝子変異陽性陽性大腸癌を対象としたCodeBreaK300試験において、標準治療(FTD/TPIまたはレゴラフェニブ)と比較してPFSを有意に延長した。OSに関しては、全体の50%でイベントが観察された時点での最終解析において、高用量群で標準治療群に比べ有意差はないものの良好な傾向が示された (HR 0.70, 95% CI 0.41-1.18, p=0.20)2。ただし、本試験はOSの差を十分に検出できる設計ではなかった点に留意すべきである。有害事象としては、抗EGFR抗体薬に特徴的な皮膚障害、低マグネシウム血症、消化器毒性が比較的多く認められた。

大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版では、「CQ24:切除不能大腸癌に対する後方治療は推奨されるか?」において、後方治療としてFTD/TPI+ベバシズマブ(推奨度1)、レゴラフェニブ(推奨度2)、FTD/TPI(推奨度2)が推奨されており、その後、「ガイドライン関連の最新情報」において、フルキンチニブも選択肢に加わっている(2024年10月)
CodeBreaK300試験の結果を踏まえ、KRAS G12C遺伝子変異陽性症例に対しては、ソトラシブ+パニツムマブも推奨される治療のひとつと位置付けられる。レゴラフェニブやFTD/TPIに対してPFSの優越性が示された一方、FTD/TPI+ベバシズマブとの比較に関するエビデンスはないため、後方治療における最適な使い分けや治療シークエンスは現時点では明らかになっておらず、今後の検討課題である。

以上より、KRAS G12C遺伝子変異陽性の大腸癌に対する治療薬としてソトラシブが承認され、後方治療に新たな選択肢が加わった。すでにRAS遺伝子変異が確認されている症例においても、そのサブタイプを再確認し、KRAS G12C遺伝子変異陽性であれば後方治療のいずれかの時点でソトラシブ+パニツムマブの使用を検討すべきである。

なお、大腸癌に対するソトラシブの使用に際してはコンパニオン診断薬の指定がなく、既存のいずれかの遺伝子検査でKRAS G12C遺伝子変異が確認されれば投与対象とすることができる。

引用文献

  1. Fakih MG, Salvatore L, Esaki T, et al: Sotorasib plus Panitumumab in Refractory Colorectal Cancer with Mutated KRAS G12C. N Engl J Med. 2023; 389(23): 2125–2139
  2. Pietrantonio F, Salvatore L, Esaki T, et al: Overall Survival Analysis of the Phase III CodeBreaK 300 Study of Sotorasib Plus Panitumumab Versus Investigator's Choice in Chemorefractory KRAS G12C Colorectal Cancer. J Clin Oncol 2025; 43(19): 2147-2154

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