遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版

付録

Ⅰ.家系図の書き方・読み方の原則
1.家族歴聴取のポイント(付録図1
  • 少なくとも3世代の情報を聴取する。
  • 近親婚(いとこ婚など)がないか確認する。
  • 罹患者だけでなく,非罹患者が同胞(兄弟姉妹)に何人いるか確認する。
  • 家系図に,聴取日,情報提供者と聴取した人の名前を記載する。
  • 父方,母方を分けて評価する。
2.家系図記載法の概略(付録図2
  • 発端者(罹患家系を発見するきっかけになった罹患者)をP↗︎で示す。
  • 来談者は↗︎で示す。
  • 夫を妻の左側に記載する。
  • 同胞は出生順に左から右に記載する。
  • 左側にローマ数字で世代番号を書く。
  • 世代ラインに合わせて個人番号を算用数字で左から順に記載する。
  • 発症年齢(診断年齢),罹患部位(両側性疾患の場合には左右どちらか),治療経過,術式,病理診断結果,遺伝学的検査実施の有無と実施した場合の結果など,必要な臨床情報を記載する。

 一般的に家系図の記載に用いられている記号を以下に示す。

付録図1 家系図の記載に用いられる記号
付録図1 家系図の記載に用いられる記号

 発端者からみた第1,第2,第3度近親者は以下に示すとおりである。

付録図2 発端者からみた第1,第2,第3度近親者
付録図2 発端者からみた第1,第2,第3度近親者

家系図の記号注釈

  • E+:検査で陽性(この場合APC遺伝子検査で病的バリアントを検出)
  • 発症前病的バリアント保持者:発症前病的バリアント保持者
  • 13:個人の右上に個人番号を振ることがある
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Ⅱ.ゲノムバリアントの記載法

 ゲノムの変化を表記する場合には,Human Genome Variation Society(HGVS)(http://varnomen.hgvs.org/)による記載法を用いることが一般的である。通常,参照配列情報,位置情報,変化の情報の順に記載する。

1.参照配列の記号

 ゲノムDNA配列:g.
 コーディングDNA配列:c.
 RNA配列:r.
 タンパク:p.
コーディングDNA配列とは,mRNAの開始コドンと終止コドンに挟まれたタンパクに翻訳されるmRNAの鋳型となるDNA配列である。

2.バリアントの位置

(1)ゲノムDNAレベルで変化を表記する場合は「g.」で表し,ゲノムの位置は参照するgenome配列の最初を1として数える。
(2)コーディングDNAレベルで変化を表記する場合は「c.」で表し,開始コドンATGのA(翻訳開始点)を1として数える(付録図3のエクソン1の終わりは,開始コドンATGのAから数えて128番目にあるので,c. 128となる)。コーディングDNAとは,タンパクに翻訳されるDNA配列であり,イントロンは含まれていないので,イントロンの位置を表現する場合は,隣接するエクソンから何番目にあるかを+または-を用いて表記する。たとえば,付録図3に示すイントロン1の始まりから15番目の塩基は,「c. 128+15」となる。エクソン2の始まり(c. 129)から上流へ2塩基の位置は「c. 129-2」と表記する)。
(3)RNAレベルの記載は「r.」で表し,DNAレベルの記載法に準拠する。
(4)タンパクレベルの記載は「p.」で表し,翻訳開始のメチオニンを1として数える。アミノ酸表記は3文字表記,1文字表記いずれでもよい(付録表1)。

付録表1 アミノ酸表記法

一文字表記 日本語表記 三文字表記 一文字表記 日本語表記 三文字表記
A アラニン Ala H ヒスチジン His
F フェニルアラニン Phe M メチオニン Met
K リシン Lys R アルギニン Arg
P プロリン Pro W トリプトファン Trp
T トレオニン Thr E グルタミン酸 Glu
C システイン Cys I イソロイシン Ile
G グリシン Gly N アスパラギン Asn
L ロイシン Leu S セリン Ser
Q グルタミン Gln Y チロシン Tyr
V バリン Val 終止コドン Ter
D アスパラギン酸 Asp      

付録図3 遺伝子の構造とバリアント表記法
付録図3 遺伝子の構造とバリアント表記法

3.変化の種類とその表記

(1)DNAレベルでの変化は,置換:>,欠失:del,挿入:ins,欠失挿入:delins,重複:dup,逆位:inv,変換:conで表記する。
(2)タンパクレベルでは,置換の場合には>を用いず,アミノ酸の位置(番号)の前に元のアミノ酸,位置(番号)の後に変化したアミノ酸を書くが,欠失:del,挿入:ins,欠失挿入:delins,重複:dup,逆位:inv,変換:conに関してはDNAと同様に表記する。
  一般的にはコーディングDNA(c.)やタンパク(p.)レベルで記載されることが多い。
  以下に具体的な例を示す。

例1)ミスセンスバリアント
  c. 146T>A(p. Val49Glu)
 開始コドンATGのAから数えて146番目の塩基がTからAに置換される。それに伴って49番目のアミノ酸がバリン(Val)からグルタミン酸(Glu)に変化する。

例2)ナンセンスバリアント
  c. 184C>T(p. Glu62Terまたはp. Glu62
 開始コドンのAから数えて184番目の塩基がCからTに置換される。それに伴って62番目のコドンが終止コドンとなり(は終止コドンを示す。付録表2参照),タンパクの生合成が停止する。

付録表2 コドン表

1番目
の塩基
2番目の塩基 3番目
の塩基
U C A G
U UUU Phe
UUC Phe
UUA Leu
UUG Leu
UCU Ser
UCC Ser
UCA Ser
UCG Ser
UAU Tyr
UAC Tyr
UAA */Ter
UAG */Ter
UGU Cys
UGC Cys
UGA */Ter
UGG Trp
U
C
A
G
C CUU Leu
CUC Leu
CUA Leu
CUG Leu
CCU Pro
CCC Pro
CCA Pro
CCG Pro
CAU His
CAC His
CAA Gln
CAG Gln
CGU Arg
CGC Arg
CGA Arg
CGG Arg
U
C
A
G
A AUU Ile
AUC Ile
AUA Ile
AUG Met
ACU Thr
ACC Thr
ACA Thr
ACG Thr
AAU Asn
AAC Asn
AAA Lys
AAG Lys
AGU Ser
AGC Ser
AGA Arg
AGG Arg
U
C
A
G
G GUU Val
GUC Val
GUA Val
GUG Val
GCU Ala
GCC Ala
GCA Ala
GCG Ala
GAU Asp
GAC Asp
GAA Glu
GAG Glu
GGU Gly
GGC Gly
GGA Gly
GGG Gly
U
C
A
G

例3)重複とそれに伴うフレームシフトバリアント
  c. 175dupA(p. Ile59Asnfs20)
 開始コドンから数えて175番目のAが重複するため176番目もAとなりコドンの読み枠にズレが生じる(この読み枠のズレをフレームシフトといいfsと表記する)。それに伴って59番目のアミノ酸がイソロイシン(Ile)からアスパラギン(Asn)に変化し,さらにそこから数えて20番目のコドンが終止コドンとなり(fs20),タンパクの生合成が停止する。

例4)欠失とそれに伴うフレームシフトバリアント
  c. 3927_3931delAAAGA(p. Glu1309Aspfs4)
 開始コドンから数えて3927番目から3931番目のAAAGAが欠失する。それに伴って1309番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)からアスパラギン酸(Asp)に変化し,そのあと4番目のコドンで終止コドン(fs4)となる。

例5)イントロンのバリアント
  c. 792+1G>A
 エクソンが終わる792番目の塩基から数えて1番目の塩基がGからAに置換する。それに伴ってスプライシング異常が推測される。

例6)エクソンの欠失
  c. 458-?_627+?del
 少なくとも1つのエクソン(C. 458からC. 627までの塩基配列)が欠失している(欠失したイントロン領域の塩基が不明の場合は『?』で表す)。
また,得られたバリアントが疾患の原因となるかどうかの判定には,InSiGHT(http://insight-group.org/variants/database/)やClinVar(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/)などのデータベースに登録がないか確認を行ったり,得られた結果から総合的な判断が必要なことがある。
 データベースに収載されているバリアントが疾患の原因になるとは必ずしも言えないので,慎重な対応が求められる。そのバリアントが疾患の原因となり得るかは,通常5段階に判定される(各論Ⅰ 2-2):遺伝学的検査 表6を参照)。

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Ⅲ.遺伝性大腸癌に関連する情報*2019年11月7日現在アクセス可能
1.関連ガイドライン

1)National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン日本語版
 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncologyは,全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織NCCNが作成し,年に1回以上改訂を行い,世界的に広く利用されているがん診療ガイドラインである。日本語版ウェブサイトは,日本の学会・研究会の専門医師によって監訳され,(公財)神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センターにより運営されている。
 遺伝性大腸癌に関する情報は,発見,予防,リスク低減ガイドラインとして,以下に示す2つの項目があり,URLより入手することができる。
大腸がんのスクリーニング
 https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/colorectal/japanese/colorectal_screening.pdf
大腸がんにおける遺伝的/家族性リスク評価
 https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/colorectal/japanese/genetics_colon.pdf

2)PDQ®(Physician Data Query)日本語版
 米国国立がん研究所(NCI)が配信する,世界最大かつ最新の包括的ながん情報である。(公財)神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センターにより運営され,日本語版では,専門家向け情報は月1回更新されている。
 遺伝性大腸癌に関する情報は,以下に示す2つの項目があり,URLより入手することができる。
大腸がんの遺伝学(PDQ®)
 http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/summary/japanese-s.jsp?Pdq_ID=CDR0000062863
がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリング(PDQ®)
 http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/summary/japanese-s.jsp?Pdq_ID=CDR0000062865

3)日本遺伝性腫瘍学会「家族性腫瘍における遺伝子診断の研究とこれを応用した診療に関するガイドライン」
 家族性腫瘍における遺伝子診断の研究とこれを応用した診療の実施にあたり配慮すべき基本原則について記載されており,以下のURLより入手することができる。
 http://jsht.umin.jp/project/guideline/index.html

4)日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」
 https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

5)GeneReviews日本語版サイト
 遺伝性疾患の症状や診断,遺伝学的検査(遺伝子検査など),遺伝カウンセリングなどについて,専門家による解説が参照できる医療スタッフ向けの遺伝性疾患情報サイトで,臨床遺伝医学に関する総合情報サイトである。2019年5月1日現在742項目が登録されており,以下のURLより入手することができる。
 http://grj.umin.jp/

2.リンチ症候群の診療に関わる資料

リンチ症候群の免疫染色に関する学会の見解と説明同意文書
 http://jsht.umin.jp/project/data/download/IHC.pdf
リンチ症候群のスクリーニング・補助診断のためのマイクロサテライト不安定性(MSI)検査(説明文書・同意書)
 http://jsht.umin.jp/hp/msihome.html
リンチ症候群(HNPCC)の遺伝子診断とリンチ症候群(HNPCC)にかかわる遺伝カウンセリングを提供できる施設
 http://jsht.umin.jp/hp/msicontact.html
免疫チェックポイント阻害薬適応判定のためのマイクロサテライト不安定性(MSI)検査(説明文書・同意書)
 http://jsht.umin.jp/project/data/msi_agreement.html

3.遺伝性大腸癌に関わる遺伝学的検査受託会社

株式会社ファルコバイオシステムズ(バイオメディカル事業部)
 http://www.falco-genetics.com/mmr/medical/hnpcc/index.html
ラボコープ・ジャパン合同会社
 http://www.labcorp.co.jp/inspection/nipt.html
株式会社エスアールエル(MSI検査)
 https://test-guide.srl.info/hachioji/test/detail/04260A374
株式会社ビー・エム・エル(MSI検査)
 http://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3604552
株式会社LSIメディエンス(MSI検査)
 http://data.medience.co.jp/compendium/module_detail.cgi?field=08&m_class=21&s_class=0001

4.遺伝性腫瘍e-Learning

 遺伝性腫瘍に共通する基本的な講義と各遺伝性腫瘍の合計12コースを受講することができる。
 https://www.e-precisionmedicine.com/familial-tumors

5.書籍

遺伝性腫瘍ハンドブック
 日本家族性腫瘍学会,2019,B5判・188頁,金原出版,ISBN:978-4-307-20397-5
遺伝子医学MOOK別冊 シリーズ:最新遺伝医学研究と遺伝カウンセリング,最新遺伝性腫瘍・家族性腫瘍研究と遺伝カウンセリング
 三木義男(編集),2016,メディカルドゥ,ISBN:978-4-944157-67-9
家系内の大腸がんとその遺伝
 Berk T, Macrae F編著,岩間毅夫,数間恵子訳,2007,A5判240頁,中山書店,ISBN:978-4-521-67741-5

6.関連学会

日本遺伝性腫瘍学会
 http://jsht.umin.jp/
日本人類遺伝学会
 https://jshg.jp/
日本遺伝子診療学会
 http://www.gene-dt.jp/
日本遺伝カウンセリング学会
 http://www.jsgc.jp/
日本遺伝看護学会
 http://idenkango.com/
International Society for Gastrointestinal Hereditary Tumours(InSiGHT)
 https://www.insight-group.org/

7.患者向け情報サイト

1)国立がん研究センターがん情報サービス
がんゲノム医療とがん医療における遺伝子検査
 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/index.html
遺伝性腫瘍・家族性腫瘍
 https://ganjoho.jp/public/cancer/genetic-familial/index.html

2)公益財団法人がん研究会有明病院
がんと遺伝の関係性について
 https://www.jfcr.or.jp/cancer/heredity/relationship.html

3)がんサポート
誤解だらけの遺伝性・家族性の大腸がん
 http://gansupport.jp/article/cancer/colon/2879.html

8.患者・家族の会

1)家族性大腸腺腫症の患者・家族の会
ハーモニー・ライン(家族性大腸ポリポーシス患者と家族の会)
 事務局:〒595-0003 大阪府泉大津市尾井千原町3-2-304
 代表:土井 悟
 TEL/FAX:(0725)32-5135 e-mail:net@harmonyline.com
 ホームページ:https://www.harmonyline.com/
ハーモニー・ライフ(大腸腺腫症患者・家族・支援者の会)
 事務局:〒160-8582 東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学看護医療学部内
 e-mail:takeday@sfc.keio.ac.jp(武田)
 ホームページ:https://harmony-life.sfc.keio.ac.jp/
ノール・アルモニー(ジェネティックハンド)
 事務局:〒963-8501 福島県郡山市向河原町159番1号
 公益財団法人星総合病院 認定遺伝カウンセラー 勝部暢介
 代表 杉山智彦
 TEL:(024)983-5511(代) FAX:(024)983-5588
 e-mail:katsube@hoshipital.jp
 Facebook:https://ja-jp.facebook.com/nordharmonie/

2)リンチ症候群の患者・家族の会
team NOLY(ジェネティックハンド)
 事務局:〒963-8501 福島県郡山市向河原町159番1号
 公益財団法人星総合病院 認定遺伝カウンセラー 勝部暢介
 TEL:(024)983-5511(代) FAX:(024)983-5588
 e-mail:katsube@hoshipital.jp
 ホームページ:http://www.hoshipital.jp/event.html#05
ひまわりの会(リンチ症候群患者家族会)
 事務局:〒740-8510 山口県岩国市愛宕町1丁目1番1号
 独立行政法人国立病院機構岩国医療センター内
 代表:柴田良子
 TEL/(0827)35-5645 FAX/(0827)35-5897
 ホームページ:https://iwakuni.hosp.go.jp/himawarinokai.html

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